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最高裁判所第三小法廷 昭和39年(オ)436号 判決 1966年6月21日

上告人

山口市

右代表者市長

兼行恵雄

右訴訟代理人

小河虎彦

塚田守男

松永芳市

被上告人

小井手七郎

右訴訟代理人

小林寛

久保井一匡

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人小河虎彦、同塚田守男、同松永芳市の上告理由第一点について。

所論は、まず、地方公共団体の長たる市長には約束手形を振り出す権限がない旨をいう。

しかし、約束手形は一定金額を一定期間後に支払うことを約束するものであるから、その振出は、現金の支払自体ではなく、出納官吏の権限に属するものとはいえず、その現金支払の原因たるべき行為として、地方公共団体の長の権限に属するものと解するのが相当であり、市長たる長井秋穂は、法定の制限のもとに、上告人(山口市)を代表して約束手形を振り出す抽象的権限を有するというべきであるから、この点に関する原判決の判断は、当審も、正当として是認することができる。

つぎに、所論は、長井市長のした本件約束手形の振出は同市長の職務の執行についてなされたものでない旨をいう。

しかし、原判決が、その挙示の証拠により、適法に認定した事実、とくに長井市長が法定の制限のもとに、上告人(山口市)を代表して約束手形を振り出す抽象的権限を有し、かつ、上告人(山口市)においては市議会の議決にもとづき市長名義の約束手形により金融機関から一時借入をしていた等の事実関係のもとでは、長井市長のした本件約束手形の振出行為は、同市長が職務の執行についてしたものであるとの原判決の判断は、当審も正当としてこれを肯認しえないわけではない。

原判決には、所論のような違法があるとはいいがたく、所論は採用しがたい。

同第二点について。

原判決挙示の証拠によると、所論の点に関する原判決の認定した事実は肯認しえないでもなく、右認定した事実関係のもとでは、長井秋穂の不法行為により被上告人において合計金二七一万九、〇〇〇円相当の損害を蒙つた旨の原判決の説示は、当裁判所も正当としてこれを是認することができる。

この点について、原判決には、所論のような違法はなく、所論は、結局、原審の専権に属する証拠の取捨・選択、事実の認定を非難するか、または、原審の認定しない事実を前提としてこれを非難するものであり、採用しがたい。

同第三点について。

不法行為による損害賠償額の算定に当り過失相殺をする場合において、過失をしんしやくして減ずべき損害賠償額の範囲は事実審たる原審の裁量に属すると解すべきである(当裁判所第一小法廷判決昭和三二年(オ)八七七号、同三四年一一月二六日民集一三巻一二号一五六二頁)。そして、原判決の認定した事実関係のもとでは、原審が過失相殺により算出した損害賠償額を違法であるということができない。

所論は、採用しがたい。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 五鬼上堅磐 柏原語六 田中二郎 下村三郎)

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